~当記事にはPRが含まれています~
「自分の過去を捨て、他人の人生を生きる」
それは、「あたかもそうであるように振る舞う」という生ぬるいものではなく、「戸籍を交換する」決心をするほどに真剣な願望に因る。
実際にそう行動した辛い過去を持つ男性と願望はあるけれど踏みとどまった主人公の弁護士。
二人を軸に物語は進んでいく。
いわゆる「親ガチャ」のように出生の境遇を選べないことから被る苦しみ。
それでも心穏やかに生きたい。
生きている「今」に幸福を感じたい。
そんな希望と引き換えに戸籍を変え、静かに新たな人生をおくる喜び。
一方で戸籍を変え、他人の過去を生きる人を愛したことによる戸惑い。
「この人は一体誰なのか?」
「私の目の前にいる彼は私の知らない誰かの過去を生きている。それでも彼を愛せるか?」
複雑なプロットを整理して組み立てていく構成力。
この物語の主テーマの他にも様々な差別にも触れられており、全く飽きさせない展開。
心理描写、特に戸籍交換した男性の妻・里枝とその息子君とのそれは論理的かつ繊細。
希望ある結末、「今ここにある幸せ」を認識するまでの完成度の高さが素晴らしい。
登場人物の誰とも境遇が似ていないので感情移入するところまでには至らなかったですが、物語としての面白さ、考えさせられるテーマに出会えたことに価値を感じました。
リンク